2018年5月 3日目:将門史跡を巡る


3日目の朝はホテルのバイキング朝食をとった。茨城なのに熊本の卵を売りにしてたのがびっくり。
本日は岩井より北方に2里ほど内陸にある猿島町の歴史資料館へと向かう。そして、観光マップに載っている将門史跡を巡っていくのだ。

この付近の地形は台地が南北に細長く伸び、さらに沼である低湿地も南北に細長く伸びていて、台地→沼→台地→沼の繰り返しで東西に広がっていく。そしてところどころ沼が台地を侵食し、ヤツという地形を形成している。台地はそう高くなく4〜5mほどの高さに思える。
台地になっているところは古い住宅と畑になっており、沼であった低湿地はかなり広大な水田となっている。海音寺氏は小説の中で「この付近の草原は表土一寸下は砂利ばかり」と、書いていたが、もしそうなら、かなりの量の土で埋め立て、元沼であったところの高さはよほど上がっているのだろうか。

そんな台地を通る国道を、北へと歩いていく。
青一色の空を眺めていると、爽やかさに包まれ心も弾んでくる。うららかな春であるがゆえの、少し汗ばむ陽気の中、喜々として歩を進め、岩井市街地の北部の、整備されているいくつかの将門史跡へとたどり着いた。

富士見の馬場から始まり、そこからは北東に進み、江川の水田地帯へと出る。その水田地帯との境目に史跡が集中していた。桜の九重だとか岩井の井戸は水田の傍にあり、延命寺は水田に食い込んでいて、一言神社と島広山は台地の端にあった。

将門の最初の本拠地は現在の豊田付近であったのだが、良兼に敗れ焼き討ちを受けた時に、豊田を放棄し、守りやすいであろう、ここ岩井の土地に営所を置いた。それが現在島広山と伝わっているところらしいのだ。
この島広山と伝わっている場所は少し高台の住宅の間にあった。石碑だけでなく少し庭のように着飾っている場所だったが、裏を見てみると畑になっていて、その向こうに一言神社が鎮座していた。先日行った一言主神社ではなく一言なのだ。この一言神社が将門の屋敷跡という説もあるようだ。
朝の恒例の行事なのか、近所の御婦人方がこの神社の界隈を掃除していた。忘れられているようでも将門を祀る気持ちはまったく廃れていない。
この狛犬の胸板とはつり上げ彫りのような毛が気に入った。板東という土地柄がこの狛犬にすべてあらわされているのがとても良い。

再度国道まで戻り、将門史跡の一番の見どころである国王神社へと到着した。本殿は茅葺き三層?の雰囲気のいい建物であった。
北山稲荷も一言神社もそうであるが、将門信仰は地元の人たちにずっと支えられてきた。これはあの海音寺氏も認めていて、好きで好きで好きでたまらない西郷と比較して、西郷並に信仰されていると書いている。 お堂の中は各地方からの様々な贈り物に満ち溢れていた。高級そうなお酒だけでなく、絵であったり、文字であったり、色々な事で小次郎将門を喜ばせようとしてくれている。そして、縁台に訪れた方々が一言書いていくノートが置いてあり、少し手に取ってみると、本当に色々な所からこちらへ将門詣でに伺っている事が分かった。海音寺氏にはすまないが、この信仰はひょっとすると西郷どころではなく、聖徳太子と張り合える人気かもしれない。西の聖徳、東の将門と名付けることにしよう。

国王神社を出て、次は高山古墳へと向かう。国王神社からは北東の馬立という地名のところにある。せっかく古墳を展示してくれてるのだから行かなくてはいけない。 弓田の交差点を東へ向かった所の写真。道路は江川を渡るため橋のようになっており、水田は江川を埋め立てたものだ。一番奥に写っている森の向こうが広大なる飯沼新田地帯で、それを越えると菅原景行の居た大生郷へと着く。菅原と平が関係があったかどうかは分からないのだが、時期的に景行と将門は会っていない説が有力らしい。時間の余裕があれば是非行きたかったのだが・・・。

高山古墳は国道沿いの場所ですごくわかりやすい場所だった。個人の方の庭にあるようで所有者名も看板に書いていた。看板によると7世紀頃の古墳で、珍しいのが筑波産の雲母片岩を使っているところらしい。そして発見された遺物は東京国立博物館に保管されているそうだ。
橿原市にも新沢古墳群という有名なものがあり、その古墳の1つから西方より渡来したと思われるガラス製品が出土し、それが何故か東京国立博物館へ渡ってしまい、もう現地には帰ってこないのだとか。
せめて出土したものの写真だけでも見たかった。 筑波山は花崗岩だと茨城自然博物館で書いていたので、この雲母片岩と言われる岩はどこのものだろうか?
ハダニにまみれながら中身を確認したり、石をなでたり、話しかけたり、思う存分に古墳を楽しませて頂いた。蓋石のような岩(石室前面の斜め石か?)が倒れてしまって半分見えてる感じもなかなかいい。

古墳とお別れをし国道の一本東の脇道を北へと進む。例の如く、麦とネギ、時々住宅、が織りなす風景をひたすらに歩く。高速道路を越えた所に養豚場があり、ブタが柵にもたれかかって休んでいた。

またしばらく麦ネギを見ながら歩き、ようやく猿島町の香取神社へと到着した。茨城に香取神社は山のようにあるが、今回ようやくの初香取だ。しかし将門とは関係が無いのか、ハンドブックにも載っておらず。
やはりというかなんというかの筋肉狛犬。大胸筋と上腕二頭筋の発達っぷりが半端じゃない。その割に腰や足が細いのでこの狛犬を「曙」と名付ける事にする。

香取神社の傍には農産直売所があった。すると・・・、なんと・・・そこには!!坂東市産豚肉が・・・・、先ほど見たブタがブタ肉になってしまった・・・・。
他は別段珍しいものが無かったので、蕎麦粉と小麦粉を買って帰る事にした。(板東そば・うどんの記事あり)
そして、直売所で聞いたソバ屋さんで昼ごはんとした。もさもさとした蕎麦で香りが弱かったのが少々残念だった。でも食べられるだけでもありがたいことだ。ないこともあるだけに・・・。

直売所から西北にある猿島郷土資料館を目指す。近いようでも遠く20分程かかった。下写真の森の奥が資料館や学校、福祉センターなどがある場所で、そこに至るまでの道が水田地帯になっている。水田になっているということはここは元々沼だったところである。
この水田地帯を東に行くと、昔に降間木沼と言われたところがある。そこから漏れ出た水がここも覆っていたということだろうか。その降間木沼の北側に将門が良兼に敗れた時に隠れた芦江津沼がある。おそらくはこれらの総称が南北に16キロ連なっていた飯沼なのであろう。
資料館に上がっていく道の手前の電柱にこのような標記があった。かなり内陸まで来ているにもかかわらず標高12mしかないのだ。この付近が沼だらけである理由もよく分かる気がする。

資料館に寄ってみたが将門の展示などは無く、写真家の人の展示をやっていただけだった。ただ、坂東市本将門記が置いてあり、少しだけ立ち読みをさせてもらった。将門研究家の方々が精魂込めたであろう本なので是非入手したかったのだが、残念な事に売り切れ。これをもってしても将門人気がよく分かるではないか。
併設されている図書館も見学してみた。さすがに将門コーナーなるものを設けていて、たくさんの将門本が揃っていた。ここで赤城宗徳氏の「将門地誌」という本に興味を惹かれたのだが、将門コーナーには鍵が掛かっていて、利用したい人は声をかけるシステムらしい。盗難にあう程人気ということだろう。
タイトルと名前だけをメモして帰ることにした。なにせここから岩井に戻るのに3〜4時間はかかるのだ。

行きは東の弓田方面を通ったので、帰りは西側の富田を通って帰る。徒歩だけによく分かるのだが、坂の起伏が意外とあって、高速道路のところまでで2回登り降りをした。
高速を越えると富田の集落となる。この富田の西側には江川を挟んで駒跳地区がある。

藤太・貞盛軍に敗れた将門は広河の江に隠れた。しかし、岩井を焼かれ、結局は戦いに出てくることになる。そして北山と言う地名の場所に陣取り、岩井より攻めてきた藤太軍と戦ったのだ。その北山という地名の場所は色々な説があるのだが、海音寺氏は駒跳だと予想しているのである。
それを一目見てみたいと思い、森に囲まれている富田集落の端へと行って見るのだが、木や犬が邪魔でなかなか思うよう見えなかった。
(※クリック拡大)
富田から出たところで振り返って撮ってみた。右側半分が富田集落で高台にある事が分かるだろう。真ん中から左側にかけて江川の流れがあって低くなっている。左側半分の奥が駒跳となる。

この富田を北山と思い目を閉じてみる。
道の先に馬にまたがった一騎の武者がいる。肩を怒らせ、頭髪は天にも昇らんくらいに逆立っている。その身は黒々としてとても人のものとは思えず、丸太のような腕に持つ弓の大きさは果てがない。
その武者が右手を上げ叫んだ。その音はまるで雷鳴のごとき爆音を響かせ、地は裂け、木が倒れた!
そして、そのままこちらの方へ猛烈に突き進んでくる。みるみるうちに大きくなり、私の目の前で大きく剣を振りかざした!と、その時、武者のこめかみに、どこからともなく飛んできた矢が刺さった!!
その武者の動きが止まる。まなじりはつり上がったまま、東方を見ている。そして、雲の流れのように、沼の流れのように、淡く、ただ淡く・・・、私の視界から消えていった。そう、これで、夢は終わった・・・、夢は終わったのだ・・・・・。

私はゆっくりと目を開けた。その、時が止まったが如く、つくば山がそびえている。武者が最後に目に焼き付けたものは、きっと、この変わらぬ形であったに違いない。

この日の夕飯は長城飯店で中華料理を食べた。客が一杯入っていて人気店だと分かる。ウマかったし、何より量がすごかったので、疲れた体にじんわりと力を与えてくれた。



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