2017年5月 鹿児島5日目:川内川のほとりで


6時に鹿児島中央駅から出発。
朝食付きのホテルに泊まったのに、利用したのは初日と二日目だけでした。もったいない…。本日も、ホテルの食堂が開く時間が間に合わなかったので、朝食抜きでチェックアウトしました。そして鹿児島市とお別れです。
薩摩地方には、海沿いと宮崎県との県境に沿って南北に走る2つの路線がありますが、それらを結ぶ東西の路線はいまや廃線となってしまい、内陸部に行くならバスしか交通手段がありません。宮之城駅を目指す我々はバスに揺られて、せっかくの風景を見ることもなくひたすら寝てしまいました。
廃線になってしまった「宮之城線」は、かつては金山で活力溢れていた大口と、海の幸溢れる川内とをつなぎ、海鮮物を積んだ行李を背負う女性や鉱山労働者、労働者相手に商売する人たちで賑わっていたのかもしれません。その沿線の駅のひとつに「宮之城駅」というのがあります。
「宮之城駅」跡に建つ土産センター(観光案内所?)が、今ではバスの最終停留所になっており、鉄道マニアなら隣の「鉄道資料館」や裏手にあった線路や車輪などの鉄道遺跡のほうが魅力的でしょう。 これから2泊する町は、薩摩地方の最北部にある「伊佐市大口」という所で、かつての宮之城線の終着駅にあたります。ここで大口行きのバスを待ちますが、一旦、大口の遥か手前の「湯田」というところで降りる予定です。どうしても食べに寄りたいお店があったからです。
それがこのお食事処、「湯乃元」です。旅行するとき予約するのは宿泊先のみ、がスタイルの我々が珍しく予約した(前日だけど(笑))お店です。
天然うなぎが狙いだったのですが、かなり先まで予約が入っているとのことだったので、今回は養殖で、それでも自信を持ってお勧めできると言ってくださいました。おぉ、期待で胸が膨らむじゃあないですか。 話は前後してしまいましたが、宮之城線とほぼ同じルートを辿って流れていく川内川のほとりに「宮之城温泉」と呼ばれる一帯があり、湯乃元さんは温泉旅館に囲まれた一角に建っています。店名が「湯乃元」となっているのも、地名が湯田になっているのも温泉町であることを物語っています。
賑わっていた時代もあったのでしょうか?団体旅行客向けであっただろうと思われる旅館の多くが廃屋と化しており、哀愁めいた雰囲気が町全体を覆っているように見えました。私の生まれ故郷も温泉の町なのでこういう雰囲気は好きですけどね。

バスを乗り継いだ土産センターでは、竹細工ばかりが並んでいました。宮之城の属する「さつま町」は、全国でも有数の竹の町であることを、町のあちこちでアピールしています。竹の何が有数?産地?それとも種類?と思いきゃ、竹林の占有面積が日本一なんだそうです。姶良市でも充分竹林だらけや…と思っとりましたが。
ご覧の通り、宮之城温泉への入り口では竹のオブジェが歓迎してくれています。写真では見えにくいけど、竹をかたどった街灯、道路の並木も竹でした。とにかく竹アピールです。 湯田という停留所が、湯乃元さんの最寄りですがそこそこ歩きます。バンブーロードと温泉町の雰囲気を楽しみつつのんびりと歩いていくも、お店が開くまでまだ1時間もありましたので、川内川沿いに散策しつつ時間を潰すことにします。
鹿児島はウナギ(養殖)の生産量が日本一で、指宿・大隅・川内がよく生産しているのだそうです。暖かくてミネラルたっぷりの水がウナギには重要らしく、温泉で有名な十津川(奈良)も最近、温泉を使ってのウナギ養殖を始めたと聞いたことがあります。もしかしたら温泉のお湯を川に流しているのと関係しているのかな?と(流しているかどうかも判りませんけど)思ったりもしています。 小石が川原にたくさん積んでありました。川内川は鹿児島で一番大きい川なだけに、水害も多く、定期的に底ざらえしないと被害が大きくなってしまうのでしょう。
川辺で石を拾ったり手を浸して遊んだりしながらどんどん歩いていくと、九電の湯田発電所にたどり着きました。もうこんな所まで歩いてきたのかと驚き、湯乃元食堂へ引き返します。昼御飯前のちょっとしたいい運動になりました。ちなみに、湯乃元さんの天然うなぎはこの川内川で獲れたウナギだと聞いていた事もあり、ウナギが居ないかなぁなんて思いながら見て歩いていたんですけどね。
メニューでは、「鮎、川えび、川カニ、うなぎ」などが見え、川沿いの食堂らしさを出しています。さて、いよいよウナギです。白焼きウナギとうな重を注文いたしました。店の庭の水槽にはウナギが3,4匹泳いでいて天然だそうです。どれもこれも立派なウナギなんですよ、じゅるるる。盗まれないのかしらん。 一度〆られたウナギが厨房の中でぶらんと引っ掛けられていて、それを主人が次々と捌いていきます。一息で腹を裂き、一刀で骨をそぎ落とすという恐ろしく素晴らしい手さばきです。見とれてしまいました。
我々はカウンターに座っていたので、主人が色々と話しかけてきます。とても明るいお人柄で、店内も活気があるので、宮之城温泉の雰囲気にそぐわないな、とすら不謹慎なことを思ってしまいました。 相棒よ、物申す。
なんでお米をど真ん中に置いての、写真かいな?
お米がメインですか、ああ、そうですか(笑)
苦笑いしたくなる写真ではありますが、左に写っています器が竹なのがすごく気に入りました。これは真似したいベスト1に決定です。秋の夜の竹取りが一番いいらしい(西吉野(仮名)さん談)ので、今年の秋に是非作ってみたいです。
ウナギは非常にうまくて、今まで食べた中では1,2番を争うかも。とにかくふんわり感がいいんです!今思い出しても、よだれが出そう。
帰り際、「道がわからなくなったら電話しなさい」と名刺をくれました。この接客サービス精神の高さ!客も次々とやって来てほぼ満席となっており、寂しい温泉町の中にあって唯一活気のある空間となっていました。また来ることがあったら、川カニやエビが食べてみたいです。 バスの時刻に合わせて店を出たわけではなかったので、歩いて行けるだけ歩いて行くことに致します。ひたすら次の停留所の時間を予想しながら歩いていくというわけです。4つの停留所分くらいは歩いたかな…。
湯田の八幡神社です。鳥居の両脇に安置している像が目を引きました。仁王像だと思いますが、ジオングのごとく…いや腕すらもついてないか。破損が激しすぎるこの容貌は、廃仏毀釈の著しかったことを物語っています。全国的に幕末〜明治がピークだったことを考えると、薩摩藩主の忠義かもしくは権力を掌握していた久光あたりの頃でしょうか。
境内にも廃仏毀釈の形跡がありました。戦争であれ民族浄化であれ、優位性を誇示するための破壊活動には、略奪を目論む存在が必ず居るものです。ドイツのヒトラーは次々と侵略した国から美術品を収集する事に余念がありませんでしたし、単なる神仏分離令が一部分では過激な廃仏毀釈に走ることによって誰が得したのかという議論も近年出て来ています。薩摩藩においては廃仏毀釈によって得をしたのは、恐らく、藩でしょう。鰐口や仏像などを没収することによって藩の財政に充てたり武器に作り変えることだって可能です。ましてやイギリスやフランスなどの強国列国に対抗しうる力を持つ重要性にいち早く目覚めていた薩摩藩なのですから。
破壊されるだけされて略奪の対象にもならなかったような石造物がよくぞここまで持ったものです。
宮之城を出ると、たばこ畑が一面に広がっていました。おばあちゃんに道を聞いたりしながらどうにかして「大角」停留所でバスを捕まえることができました。
そこから1時間くらいで大口駅に到着しました。静かな住宅街という印象のある町でした。早速ですが、旧薩摩大口駅跡に建つふれあいセンターから薩摩大口の旅をスタートさせます。
ふれあいセンターは3、4階建てのビルで、土産屋、喫茶店、図書館、郷土館が入っています。郷土館に向かうも中は真っ暗で、「電気はここでつけてください」の貼紙に従いつつ中に入ってスイッチを押すと、男性が出てきてどういう目的でここに来たのか聞いてきました。「海音寺さんのファンだから来た」と相棒が答えると、嬉しそうに「昨日も大阪から海音寺目当てで来てたわ、よう来るねん、海音寺とあと井上、スラムダンクの井上」と饒舌になりました。
今回の薩摩大口旅行の目的地「菱刈金山、高熊山、久七峠」を挙げてみたら、「金山なんか行っても見れないし行く意味ない、高熊山は徒歩なら2時間4km、久七峠は歩いては無理」とせっかちな性格のようで簡潔に答えてくれました。
「よし、じゃぁまず金山を説明しよう、後でビデオも見せたるわ」
秘蔵の鉱石標本を見せてくれたりビデオを流してくれたりと、展示物を回るよりも、男性の事務所にこもっている時間のほうが長かったくらいでした。
「さて、後は海音寺やな」と促されて2階の図書館へ降ります。鹿児島県立図書館にあった海音寺コーナーと似たような感じの一角があり、男性の説明によると、海音寺財団が解散したときに県立図書館と近代文学館と大口の3ヶ所に寄付されたのだそうです。
男性は、いつも郷土館に居る訳ではないようで、会えた我々はラッキーだったのかもしれません。大口のことなら何でも知っていそうでした。 旅館に戻り入浴したあと、晩御飯を求めての外出です。国道まで出たのですが(これが遠い)飲食店がほとんど見当たらずスーパータイヨーで懲りずにあく巻き、きな粉、黒糖をおやつ用に購入してしまいました。ブックオフにも大した本がなく、つまらなかったので大口停留所へ戻り、あまり乗り気ではなかったけれど焼き肉屋にしました。それがこちらの「炭火屋 麒麟」です。食べログにも載っていないんですが、炭火の本格的なお店でめちゃうまかったです。伊佐市は人口よりも豚の頭数のほうが多いくらいの産地なので、焼き肉屋にして良かったです。何も牛肉にこだわらなくても、ね。
大口観光するなら、この焼き肉屋はお勧めです。夜だけの営業、有名な伊佐焼酎「伊佐美」を片手にいかがでしょうか。


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