2017年5月 鹿児島2日目:遠くの噴煙を眺めつつ思ったこと


錦江湾と言う鹿児島県の中央部に位置する内海が、桜島を取り囲んでいます。錦江湾沿いを走っている限り、常に、島のように海に浮かぶ桜島が良く見えるという訳です。やがて電車は、海沿いの長いトンネルを抜けて姶良市の帖佐駅に入ります。トンネルを境に薩摩国と大隅国に分かれていたかと思われます。
帖佐駅からバスで向かう蒲生(「かもん」と地元では発音する)が本日の観光地になります。 この辺りの田畑は錦江湾に流れていく蒲生川の両脇に沿って細長く伸び、さらに山々が田畑に沿うようにして生えています。噴火や火山による陥没で出来上がった山だからなのか、ニョッキリという感じで、「生えている」という表現がふさわしいように見えます。その蒲生川によって作られた細長い平地の一番奥に蒲生は位置しています。 蒲生のバス停に着くと、すぐそばに「くすくす館」なる店があり、買い物客でごった返していたので我々も一緒になって入ってみました。蒲生の農産物・加工品を近辺の人が買いに来ているようです。「あくまき」というものがたくさん置いてあって、「これはヤワイ、フニャフニャや」とブツブツ言いながら一生懸命選別して3個もカゴに入れて行った初老の男性がいて、つられて我々もニギニギ堅さを確認して1個購入しました。堅さはよく判らなかったのだけれども。
さらにまた近くにお馴染みのAコープがあったので寄り道してみます。正面玄関の目立つところに、「あくまき用」の木灰抽出液と「あくまき用」の竹の皮が置いてありました。木灰そのものも売っていたりして県外人にはカルチャーショックです。
黒糖の販売量が多い。
Aコープの店員に「黒糖の使い道」について聞いてみると、
「そのままか、料理か、あくまき」とのこと。
そのまま、って何だろう…黒糖そのもの食べるということなんかいな?
「あくまき」というのが、竹皮に包んだ餅米を木灰汁で煮たお菓子のことなのですが、ここで大きな勘違いをしていたことにまだ我々は気づいていませんでした。
薩摩特有の「外城制度」の名残り、蒲生の武家屋敷群。蒲生八幡神社から南にある蒲生城を結ぶ町通りとして形成していたそうです。
石高だったか身分によって風格が違ってくる表向きの門「武家門」の奥に、もうひとつの塀が建っているのが見えます(もしかしたら門ももう1つあるかも?)。城で言うところの「枡形虎口」という形に似ています。ご時世でしょうか、中には武家門の階段をバリアフリー化したり、中の塀を取っ払い車置き場にしている家もちらほらありましたけどね。
蒲生八幡神社の大楠です。数多くの根が地を張り自らの太い胴体を支えていますが、中は空洞になっているのだとか。称徳天皇(奈良末期)時代の政権争いの1つに「宇多八幡宮宣託事件」があり、大隅国に流された和気清麻呂がこの地に立ち寄り杖をついたのが始まりだと案内板にありましたので、1300年間生きてきた楠だということになります。
鹿児島の郷土菓子「ふくれ菓子」「あくまき」。どっちも黒糖を使うオヤツです。
立派な大楠の木の下で、あくまきを頂きました。竹皮で包んでいるのは「チマキ」みたいですが、開けてみると「なにこれ!?」ゼリーを堅くしたような茶色い棒が横たわっています。恐る恐る噛んでみると、苦いような臭いような不思議な風味。たぶん、木灰汁のせい。あくまきに黒糖を使うと聞いていたのに、無味だったので過ちに気づいたのです。黒糖は食べる時につけるってことだったんですね…。全部は食べ切れなかったので、また竹皮で包みなおし次に出発します。
この町は「司馬遼太郎が愛した蒲生郷」であるということをアピールポイントとしており、司馬が小説でも書いていた「サムライ会社」「竜ヶ城」「ソバ屋にいな」がポスターに載っておりました。特に「サムライ会社」の話はとても面白く私もよく覚えていました。しかしサムライ会社は改装工事でブルーシートに覆われ建物は全く見れず、「蒲生殖産興業株式会社」と読める表札門しか確認できませんでした。この会社が元のサムライ会社であることは事前に確認済みでして(蒲生観光交流センターの人に教えて頂いた)、どうしても気になりますのが「TEL 4」と表札に載っていたことです。風雨に洗われて他の数字が消えたわけでもなく、最初から「4」としか刻まなかったように見えます。
武家屋敷を通って南下し、次の竜ヶ城磨崖梵字を見に行きます。武家屋敷一帯は門構えや生垣石垣を眺めながらのんびり散策できる、いい雰囲気の町でした。
蒲生城跡も行ってみたかったのですが、観光交流センターの人によると磨崖梵字とは道がつながっていないため、一旦降りてから迂回しないといけないらしいのです。それで蒲生城のほうを諦め、より近い磨崖梵字だけを見に行くことにします。
麓にある「落石注意」の看板にひるんでしまいましたが、登って5分もすれば着きます。確かに梵字を刻んだ崖は脆い岩質に見えます。水はけがかなり悪いため足場がぬかるんでおり歩道もところどころ途切れていますので注意が必要です。
崖一面に刻まれた梵字、仏のお姿、何かの抽象図、そしていくつかの掘られた穴祠は、刻字(刻図)の雰囲気が一様ではないことから、鎌倉から江戸時代にわたって数人が願いを立てたり修業の意味を込めて刻んできたのではないかとも思えます。もしかしたら山伏が修業の一環として岩崖によじのぼり無理な姿勢で刻んでいったのかもしれません。
近くからも遠くからも磨崖梵字を堪能したあとは、昼食に向かいます。もちろん、「ソバ屋にいな」です。鮎の出汁が自慢で、司馬が個人的に妻を連れてきたこともあるという事が自慢のようです。鮎出汁がどんなものか気になっていたのですがよく分かりませんでした。麺はソバの風味はあまりしなくて、フワッとしてサクッと切れる麺でしたが、薩摩だとそれが普通なのかもしれません。全体的にやさしい感じの味わいでした、最近のは風味も味もきついものが多いので新鮮でしたね。今度はもっとじっくり味わってみたいと思います。
帖佐駅に戻るバスに間に合わせるよう、急ぎ足で「蒲生どんのお墓」に向かいます。
向かう途中にあった村の墓地。お墓に屋根がついているのが珍しいです。もしかして火山灰が降るから…?
長崎(島原半島)でも感じたことなのですが鹿児島もお墓を、「とても身近なもの」という認識を持っているように見えます。お盆でもないのに新鮮なお花が供えられているお墓が多いですし、親子3人でバケツを持って墓地に向かうなんてこともよく見かけました。(※ 私は半年に1回のお墓参り、相棒はお墓参りしたことがないという家に育ちました)
したがいまして、お墓の屋根は火山灰予防屋根ではなく、家の中にある仏壇のように身近なものとしてお墓を見ていることの表現の1つだと私は理解したいと思います。 ※クリックすると蒲生氏の家紋が見れます。
島津氏の鹿児島統一によって滅ぼされた氏族、蒲生氏のお墓です。蒲生氏の歴史について、司馬遼太郎は「この山伏(宇佐から来た密教の修験者)が蒲生家の祖になった。つまり蒲生郷には山伏政権がずっとつづいてゆく(略)」と述べ、先ほどの磨崖梵字との関連性にも触れています。
「《案内板》より
中世豪族蒲生氏の墓地で、菩提所であった法寿寺跡の一角にある。ここは蒲生氏八代から十三代までの当主とその一族の墓、三十一基がまとめられている。慶応三年(1876)の洪水で流出・埋没したが、昭和十三年に有志の手によってこの地に復元保存された。中世豪族の墓地としては、県下に類をみない五輪塔群とされる。」
帰りのバスは我々以外に乗客がいなく、ひたすら運転手とおしゃべりしていました。最近イオンが出来たらしく、駅前の渋滞解消についてが運転手にとっての大きなテーマのようです。
帖佐駅から重富駅に電車で向かいます。かつての大隅と薩摩の境界線であっただろうトンネルのそばにある駅で、近くでそびえ立つ山々の麓に沿って歩いていきます。
布引の滝ちかくの眺望台より。少しでも山に登ると、町が一望できます。やっぱり山が「生えている」ように見える。 蒲生氏と島津氏が激突した「岩剣城」跡。名前からにして険しそうですが、むしろ変形しています。城の遺構も残っているらしくて登る予定でしたが、もう日も暮れているのでこれまた諦めなくてはなりませんでした。蒲生氏を破った島津氏は、険しくて日常生活には不便だという理由により麓に「平松城」を築きます。これが今の小学校になっており、石垣は当時のものを使いまわしています。
重富港を軽く散策してから鹿児島市内に戻ります。波もなく静かな内海に、桜島が生えています。鹿児島市から見た桜島はもっと台地のように山頂が削られていましたが、重富からだと多少鋭峰になっているので山らしく見えました。
あれ?
よく見ると、煙が横から出ています。あれは噴火の煙でしょうか。
そうとしか思えません。なぜならあそこの方角には海しかないはずなのですから。
火山を絵に描けといわれたら、私は山頂に3つくらいジグザグをつけてそこに煙をつけると思うのです。そういうイメージしかなかったのです。
なるほど。噴くのは一番高い山頂とは限らない。
恐らく、山稜に隠れていますが反対側にもうひとつの低い山頂があるのでしょう。いくつかの噴火によって形成された山が幾重も折り重なった連合体が桜島なのだと、そういうことなのだと眺めながら大きくうなずくのでした。 鹿児島市内の城山ストア(前日も探したけれど見つからずリベンジし探し当てました。高見馬場駅の左)にて購入した鳥刺しと豆腐。今夜のご飯はホテルで頂きます。闇市が前身だというこのスーパーは、品揃えが鹿児島らしい商品ばかりで楽しく買い物もできました。突然、大久保利通像の下で食べたいと言い出す相棒をスルーして、ホテルに戻るのでした。


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