2017年10月 2日目 スーパー防潮堤・一条工務店の野望?


ウナギを食べまくったおかげで二日目の朝も元気に迎える事ができた。本日もウナギを食べまくろう!

ホテルから駅への道には住宅が立ち並び所々には玉ねぎ畑がある。浜松の名産らしいが関西では聞いたことがない。ウナギ養殖場があれば見てみたいと思ってたのだが結局見つける事は出来なかった。

「カシ男!これからどこに行くの?」
「とりあえず海に行って見ましょう。長い浜辺を見てみたい。」
こうして私たちは南国への憧憬を胸にいだき、暖かい日差しの中を進んでいった。

JRの線路を越え、旧東海道の松並木を越えて、昔の防波堤と思われる所へたどり着いた。ここの松がすごい痩せているうえに、風が来る方向に曲がっているのがすごい面白かった。
昔の防波堤を登り切りさらに海へ進んでいたら浜名バイパスという車道が走っていた。
「あれ?この車道は通れないようですよ?下にトンネルがあるけど防潮堤の工事の為通行禁止だって。」
私はそう言いながらトンネルにかかっている看板の説明書きを見てみた。天竜川から浜名湖の今切口まで工事をしていて、浜へ出る為の道は限られてしまっているようだ。
「なんという事!!こうやってまた1つ景観を壊すんやね、海がまったく見えなくなるよ。」
カシ女がキレた。海が見えないということよりも、今自分たちの進んでる道が通れなくなってることにキレたんだと思う。
「まあまあ、そんなにキレんでもよろしいがな。海の1つや2つ見えんでもまったく問題ありゃしまへん。」
私はカシ女をなだめた。せっかくのウナギ旅行楽しくいきたいものだ。
「この堤防沿いに歩いてたら、どこかで浜にでる術も見つかるやもしれぬし、とにかく浜名湖へ向かって行きましょう。」
私はカシ女を促し、防波堤の松林の中を西へと進んだ。カシ女も渋い表情をしながらも歩を進めた。

しばし歩いていると小高い丘のようになっている場所がありそこからの海の眺めは良かった。ここに堤防が建ってしまうと思うとやはり残念な気がする。
ここで散歩中の男性の方が休憩をしていた。せっかくなので浜に出る道があるか聞いてみる事にした。
「浜に行きたかったのですが、通行止めになってて行けないのですね。どこかから行けませんかね?」
「端の方からやったら海に出れたと思うで。」
「ここに堤防を作るみたいなんですけど、海が見えなくなって残念ですね。」
男性が海を見ていたのでいつもここの景色を楽しんでるものだと思いそう聞いてみた。
「ここに13mの防潮堤を作るんや、その基礎の工事で山から土を持ってきている段階やね。320億円かかるんやけど、国じゃあそんな金ようださんねんな。それを一条工務店が300億円ドカンと出しよったんや。そこに工場があるスズキは5億しかだしとらんわ。」
私は300億円に衝撃を受け思わず声を上げてしまった。
「マジッスカ!?320億円中300億円てほぼ一条工務店単独やないすか、すごいですねそれだけの額をポーンと出せるなんて。」
私の驚きが嬉しかったのか男性はさらにしゃべる。
「一条工務店は海外でぼろ儲けしてるからな、そんくらい出せるんやな。国では絶対防潮堤はできなかったと思うで。」
他にも遠州灘の波はたいしたことがないとか、この辺りはシラスが名物だとかいう話をしゃべっていたと記憶しているのだが、ウナギの話しは全く出てこなかった。地元の人にとってはウナギは食べるものではなく売るものなのかもしれない。

散歩男性に色々と教えていただいたお礼を言って別れ、浜名湖へ向かって歩く。その途中で浜へ出れる道があったので行って見たが、柵がしてあって浜へは出れず、工事してるところを見る場所みたいだった。
「こんな罠みたいな場所作って嫌がらせちゃうの?ムカつくー!早く砂浜に行きたいのに!」
またもやキレるカシ女。しかし彼女の気持ちもよくわかる。
「もう砂浜はあきらめて舞阪資料館にでも行ってみましょうよ。なにか面白いものがあるかもしれないよ。」
カシ女に怒りを忘れてもらうために私は別の話題を提供した。

「あれ?あそこで何か草ムシってる男の人がいるけど何してるんだろう?」
カシ女が前方にいる人の行動に興味を示している。その方はマラソンでもしてたのかすごい汗をかいていて休憩中に草をムシっているようだった。
「ちょうどいいね、あの人に資料館がどこにあるか聞いてみよう。」
私はそう言って草をムシっている人に近づいていった。
「すみません、この辺りで舞阪資料館というのがあるのですが分かりませんか?」
男の方はムシっている手を止めこちらを振り向いた。なぜだか分からないがものすごい汗だ。
「資料館ってのは分からないなあ?ん?学校の近くにあるの?じゃあそっちのほうかな?」
そう言って北の方角を指さしもう片方の手で汗をぬぐっていた。
私はついでに他の事も聞いてみた。
「浜名湖の今切口という場所は徒歩でも渡れますかね?」
浜名湖の海へつながっているところが今切口という地名で、車道はあるが徒歩で渡れるかが分からなかったのだ。
「あそこは渡れへんで、弁天島の方の橋は渡れるからそっちから回っていくしかないな。」
「ここにすごいでかい堤防が建つらしいですけど邪魔ですよね。」
「そうそうここの堤防一条工務店が300億円だしたんやで、こっちはまだまだやけど東の方にはあるていどできてるところもあるねん。しかし堤防の工事で木が全部刈られてしまって暑いわ、たまらんわ。」
一条工務店の策略がみごとにはまってみなさんが覚えていらっしゃる。私たちは草ムシりの手を止めた事を詫び資料館方面に向かった。

「この堤防が途中で中止になったとしても一条工務店は歴史に名を残しますね。浜松城と双肩をなすやもしれませんよ。」
「確かにそうかも、それと時間があったら東のできてる堤防も見に行ってみない?」
「そうですね。どんなものか百聞は一見に如かずですもんね。できる限り行く方向で考えましょう。」
私たちは今後の予定などを会話しながら舞阪資料館への道を進んだ。
こちらのシラスを干す場所が舞阪の特徴的な風景。こんなところがあちこちにあって、ここは豪勢なことに休憩所つき。
「ここでちょっと休憩していこうよ〜〜。」
カシ女がベンチに座り私にもこいこいと手招きをする。
「やめなさい!堤防見に行く時間が無くなりますよ!」
私は駄々をこねるカシ女の手を引き先へと急いだ。

舞阪資料館は図書館と併設されていて小さな展示室だった。浜名湖が昔は閉じていたのが地震の影響で切れてしまい海とつながり、1499年今切口が誕生したというのが興味深い。図書で気になったのが久根鉱山の問題で、公害を引き起こし閉山したあとも今なお鉱毒の処理をしているという、大口金山と同じような事が各地で起こっているのだとあらためて思った。

資料館を出た後は舞阪漁港に向かい昼飯所を探した。すると港界隈でウナギ屋「つるや」さんが炭火の準備をしていたのでつられて入ってしまった。
ここのウナギは写真のようにウナギを二段にしているのだ。しかも関西風?の見た目なので期待に胸を膨らませていたのだが、見た目によらず油分は少なかった。タレが甘めだったことを考えると多めに塗った分油っぽく見えたのかもしれない。そしてここのウナギも少々骨ばっていた。浜名湖のウナギが骨っぽいのかもしれない。でも2000円くらいで他のところより安かった。

舞阪漁港ー弁天島界隈をグルッと一回りして弁天島駅から高塚駅へとやってきた。ここからまた例の如く海に向かっていく、堤防を見る為に。
こんな広い空の中を歩いていけてとても気分が良かった。しかしそれも少しの間だけで長い間変わらない景色の中を歩いていると飽きてきてつまらなかった。これは滋賀の田んぼの中を歩いている時も思ったことだ。
海の手前で堤防が出来ていて登っていくと、重機が止まっていてまだまだ基礎の途中みたいだった。犬の散歩をしてる入れ墨の方がいたので聞いてみた。
「この辺りに堤防があると聞いて来てみたのですが全然ないですね?」
「ん?防潮堤の事か?それやったら御前崎の方やで、この辺はまだできてへんで。」
御前崎がどこか分からなかったがとにかくこの界隈にないということだけは分かった。苦労がむくわれず疲れが足にどっと出てきたがよくある事だと自分に言い聞かせ、入れ墨の方にお礼を言い来た道をまた戻るのであった。

トボトボと高塚駅まで戻ってきて舞阪駅への切符を買いホームへ行く。すると鼻水を垂らした酔っぱらいのおじさんが声を掛けてきた。
「私はスズキで働いていて怪しいものではないです。お酒でも飲みませんか?」
鼻水おじさんはそう言って袋の中身を見せてきた。そこには「鬼殺し180ml」が3本も入っていた。私は直感でこの方がなぜこんなものを持ってるかを理解した。
「鬼殺し3本も入ってるじゃないですか!?浜名湖競艇で勝ったんすね?でも酒飲めないねん。だから祝杯は1人であげといてや。」
鼻水おじさんが勤めているスズキを見ながらおしゃべりをした。だけどロレツがまわってなくてほとんど聞き取れなかった。
「そういえば堤防を見にここまで来たんですけどまだ出来てなくてまいりますわ。スズキは5億円しか出してないらしいですよね。」
もう定番となってしまった堤防の話しをしたら、相手も少し興味があったようだった。
「私は宮城の石巻から来てるんやけど、福島も仙台もなめてたんやな。」
この辺りまでは聞き取れたがはっきりとは分からなかった。そしてたいして理解できないままお別れとなりました。

舞阪駅からホテルまでの道のり・・・、そう、ヌートリア街道とでも名付けようか。その街道を歩きながら私たちは語り合った。
「ほとんど聞き取れなかったけど、どうも震災の影響でこっちに来てる感じかな?防潮堤に関して不満がありそうやったし津波で被害にあったのかもしれないね。」
「一人で来てる感じやったね。しゃべる相手を探してた感じやったね。駅員とか他の客にも絡んで無視されてたで。」
観察眼の鋭いカシ女はその方をすでにチェックしていたのだった。
「目の感じからして優しそうな人やったけど、酔ってるだけで相手にされないってのも現代の怖さかもしれないね。しかし競艇で勝ってるのに鬼殺し3本は少ないなあ。」
「たいして勝ってないんちゃうの。というか今の時点でかなり飲んでるで。」
そんな話しをしながらこの日は更けていきしゃべる相手がいる幸せを私たちは噛みしめるのであった。



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