宇和島旅行3日目


日振島での朝、6時半くらいの明海港の風景を二階のテラスから眺める。
小さな船が桟橋に繋がれ、軽トラックが二台止まっている。これは昨夜からまったく同じ光景だ。港のすぐそばの宿だったので、朝はかなり騒々しいのではないかと思っていたがそんな事は無かった。土日は漁は休みなのかもしれない。


晩飯に比べ朝食は質素だったが、米のおかわりは好きにできるのでたらふく食べた。
女将さんに純友公園の場所を聞き宿を出る。飯は豪華でウマいし部屋も綺麗ですごく良かったと挨拶をしたのだが、南予の人は感情をあまり表にださないので軽く微笑んだ程度だった。かと思えば、純友公園への地図を書くときは楽しそうだったので商売気があまり無いのだろう。そんな素朴さが良い宿だった。
港沿いに歩き、桟橋を越えたところで民宿を振り返ってみた。いつの間にか太陽が中空で輝いていた。私は柔らかい光と共に明海集落の中へと溶け込んでいった。

狭い路地を歩き集落の奥に入って行くと海円寺があった。立派なお寺で、山門に釣鐘、お堂もあった。
隣接している墓地は、能登集落同様に石垣を配することで絶壁にお墓を作る空間を作りだしていた。
住職や偉い人の墓と思われる五輪の塔は花崗岩製で、跳ね上がりの部分を尖らせている。個人的な見解だが、新しいタイプの五輪の塔だと思われる。


一般人のお墓は砂岩製で猫足と言われるお墓の形をしている。猫足と言われる形は江戸時代に瀬戸内で流行したと西予市愛媛県歴史文化博物館の学芸員の方に聞いた。

少し高台から集落の風景を眺め、純友公園へと歩みを進めた。この話は「純友公園攻め」にて記述。(クリックで城攻めコーナーへ移動)

純友公園攻め後、車道沿いに歩き続ける。下写真は「堺の浜」と呼ばれる場所で、島が途切れている。現在でも道路の下は水路になっていて海はつながっているのだ。


堺の浜に立ち海を見比べてみたが、西は海しか見えず、東は宇和島の山々がよく見えた。
とてもそうは思えないのだが、九州とのつながりも強いと言われ、豊後の大友氏がここに拠点を築いたらしい。海流に任せていれば日振島の岩壁に自然とぶつかるのだろうか?もしそうならば、海流を把握した海賊というのは非常に厄介であり貴重な存在だ。

板東武者である平将門は騎馬の印象が強いのであるが、広い低湿地帯の下総では船の移動が欠かせない。その為、馬運業者と海運業者には密接なつながりがあるのではなかろうか、と網野氏の対談本に記されていた事に強く興味を持っていた。
承平4年(934)、朝廷が海賊追捕に武蔵の兵士を派遣したことが記録にある。成果が記録されていないことから大した活躍はできなかったと思われる。これは、海と湖沼がまったく違い運輸業者を思うよう使えなかったことの現れではないか。

海を知り尽くしたものを配下に置いた以上、純友が海から離れられなかったのもよく分かる。


堺の浜から40分程歩くと喜路の養殖場が見えてくる。写真左の島が横島で、右は日振島の最南端だ。その間を「早磯の瀬戸」と言うらしい。水流が早くなるところなのだろうか?
この雄大な眺めを見ながら少し歩いていると、大きな廃屋があり、そこから集落になっていく。

喜路集落では家の前のベンチで座っているおじさんが居た。山に入れるかどうか聞いてみると、昔は能登の方へ行く山道があったのだが、数年前くらいからでかいイノシシが出だして誰も山に入らなくなったのだとか。また、山を越えて反対側の海に行くのはかなり難しいという。
それならばと先っぽを目指して歩いてみる。途中で港があったり作業工場があったりで右往左往していると、船の作業をしていた人が「工場のとこをグルッと回るんや!」と指示してくれ、先へ進むことが出来た。



少し歩くと日振島の先っぽへ到着した。切り立った岩に黒々とした岩が転がる。ここが早磯の瀬戸と言われている場所で、向かいに見える島が横島だ。尖がりかげんが美しい島である。
ただそれだけの場所であったが、波風のしぶきを感じながらしばし物思いにふけるのだった。

帰りの船が来るまでの間に集落の中を散策してみる。家が狭く密集している中、時々畑がある。獣除けネットを張り巡らしているのをみると猪が降りてくるのかもしれない。


港のすぐ傍には八坂神社があり、原型をギリギリとどめている尾道型狛犬が置かれていた。ボロボロになってもなお頑張っている姿が非常に美しいではないか。


日振島の中では喜路港が一番栄えているように思えた。このように待合所があるのはここだけだったし、畑もここでしか見なかった。お墓も綺麗に新調されているところが多く、人と話したのもこの港だけなのだ。

やがて、船が入港しいつものように迎えの人が集まる。私は人の流れに逆行し船内に乗り込み夕日と共に宇和島へと帰る。船内ではひたすら寝入ってしまい純友への思いはどこへやらという旅となってしまった。





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